それは6月13日の夕方でした。ログハウス作りをそろそろ終わろうかと思っていた頃、駅前の家の窓辺に1匹の猫がいました。近寄っても逃げません。かかえると抱きついてきました。腹が減ってるようだったので余りものをやったら、ずいぶん人恋しいのか膝の上から離れようとしません。降ろしても肩まで飛び上がってくるのです。「これはまずい、完全になつかれてしもた。」
動物は大好きなのですが、ペットにすると主人が出かけている時一人で寂しく待っていたりするのがかわいそうだし、寂しさを紛らわすための人間のエゴだと思っていたので、飼ってやる気はなかったのです。
ところがいつまでたっても駅から離れようとしません。餌だけはやっていたので当然かもしれませんが・・・。迷い猫かと思い、保健所に問い合わせても届けはでていません。宿としての衛生上の問題もあるし、施設の中に入れなければいいかと考え、放し飼いすることにしました。名前は、人に好かれるトラ猫なので「トラえもん」と名付け、「トラ」と呼んでいました。
夜一人で外にいると寂しいらしく、特にお客さんがある時などはニャーニャー鳴いて、窓からじっと中を見ていました。それでも中に入れなかったのですが、半月ほどたったある日、お客さんの夕食時、ホームの縁石のところで一人森の方をじっと見つめているトラがいました。夕日に照らされたその後ろ姿は何とも言えない哀愁があったのですが、その後、ホームの向こうにキタキツネが現れたのです。すると、その後からトラの姿が消えました。最初それほど気にも留めていなかったのですが、翌朝食事の時間になっても帰ってきません。これはひょっとしたら昨日キツネにでも食われたんと違うかな、とか考えてしまいます。しかしいつもいるものが急にいなくなると、こんなに心配になるものなんですね。
ひょっとしたらどこかへ行ってしまって、もう会えないかもしれないなと少し諦め気味だったのですが、その日の夕食時、ちゃっかりお客さんの横に座っておこぼれをねだってました。なんだか凄く嬉しくなってしまい、その日は一緒のふとんで寝てしまいました。この日からトラは家猫になったのです。これはおそらくトラ君の「家に入れてもらおう作戦」に完璧に引っかかったかもしれません。
その後の彼は持ち前の人なつっこさで、お客さんから大変かわいがられ、すっかり自分のポジションを確保してしまいました。なかなかしたたかな奴です。お客さんが多い時は遊び相手になってくれるので、特に子供達がいるときは非常にいい仕事をしてます。

トラはこんな顔です。なかなかの男前です。寝るときはこんなポーズで寝ます。変な奴です。
11月初め、京都に帰ることになり、トラも連れていこうと思ってたのですが、飛行機に乗せると往復1万円かかることが解り、札幌の常連さんのところで預かってもらうことになりました。その前日、天気が良かったのでいつものように散歩に出したのですが、夜になっても戻ってきません。出発の時間になっても帰ってこないので、仕方なく作りかけのログハウスの床を開けていつでも入れるようにして、10日分の餌をおいて出かけました。「ずいぶんタイミングの悪い奴やな。」でも、今度ばかりは駅に帰ってきても誰もいないので、そのままどこかに行ってしまうことも覚悟していました。
10日後、半ばあきらめてログハウスの中を覗くと・・・、なんと少しスリムになったトラが出てきました。ということは、はぐれたのではなく札幌に預けられるのがいやで隠れてたということになりますね。比羅夫の住み心地がよすぎて、離れられなくなってしまったようです。近所の人の話では、僕が出かけた次の日に戻ってきたとのこと。おばさん達に餌をもらい、人恋しかったらしく、行こうとすると飛びついてきたそうです。しかし、預けられるのを感づくとはかなり出来る猫のようです。でも朝方、氷点下の中を耐えるくらいなら、札幌に行った方がいいと思うんですが、まったくかしこいのか、あほなのかよくわからん奴です。今回、ほったらかしにしても無事なのが解ったので、預ける、連れて帰るの他に、次からこの方法も選択肢の1つに加わりました。かわいそうなトラ君!

箱に入って出られなくなりました。(写真左上)
マタタビをかじって、頭がおかしくなってるトラ。(写真右上)
毛並みがよくフサフサしてるのでデブ猫だと思われてますが、実はそんなに太ってません。洗うと解ってもらえます。トラもデブと言われて怒ったようです。アカンべーをしてます。(写真左)
12月30日朝、お客さんが玄関を開けた時一緒に外へ出たまんま戻らなくなりました。保健所に聞いても届けはありません。
「またトラに会いに行きます。」と書いた年賀状が何通も届いたので、ちょっと心が痛みます。
まあ、勝手にやってきて、勝手に住み着いたので、勝手に出て行くのもトラらしいのかもしれません。元気でさえいてくれればそれでいいのですが・・・。
今回ペットを飼ったのは初めての経験だったのですが、それまでは世話が大変なので、忙しく仕事をしている人間にとっては足手まといになるだけだと思っていました。でも、1匹いるだけで精神的にすごく落ち着くし、仕事も以前よりやる気がわいてくるのです。そして何より、お客さんとの潤滑油としての役割を見事に果たしてくれました。
結婚や子供ってのも、それと同じなのかもしれませんね。トラに出会って大事なことを1つ教えてもらいました。
ありがとう、元気でな。